顎顔面外科学講座 概要/診療

この講座は顎口腔外科学講座(歯科口腔外科第一診療部、1口外)と共に顎顔面の広い分野の(歯牙歯周と補綴および歯科矯正学などに関する以外)歯学教育とその医療を担当しています。当講座の一部は口腔先天異常学寄附講座として半分離状態にあります。本体部分は病院機能の歯科口腔外科第二診療部(2口外)を担当し、1口外と共に「口腔外科」診療の全範囲をカバーしている。中でも口腔癌の診療、顎顔面外傷、顎変形症の手術、診療が最重要疾患で、最頻出疾患はオヤシラズや位置異常の歯など抜歯です。

本講座の臨床実習前の教育担当範囲は、癌をはじめとする腫瘍学、先天奇形、神経疾患、粘膜疾患などですが、臨床実習の範囲ではより広く、「インフォームドコンセント」「医療安全」など社会医学系の内容も担当しています。研究においては前記の臨床に係わる研究の他、唾液腺腫瘍の病理学的研究、顎顔面骨格の形態解析、歯牙の発生に係る遺伝子制御に関する研究や粘膜免疫に関する研究をとくに記しておきます。

なお、当講座に関連する病院歯科口腔外科が20施設を超え、当講座の非常勤教員がその病院に赴いており、当講座の専攻生が派遣専攻生として研修を重ねているように、次世代の病院歯科臨床医育成に力点をおいていることが大きな特徴といえます。

腫瘍系疾患

口腔・顎・顔面領域の悪性腫瘍に対して手術を中心に治療を組み立てています。一般的に癌は、手術、放射線や様々な抗癌剤などの手段を組み合わせて治療されていますが、初期口腔癌においては癌を切り取ることが、最も単純で体の負担や障害が少ない治療法と考えられています。従って私たちの基本的な治療姿勢は、必要最小限の侵襲に留める外科療法です。これに加えて、近年の医療技術の発展を最大限に利用できるよう、県下の基幹医療施設とも密接に情報交換し、病病連携の下で治療を進めています。

粘膜疾患

粘膜外来では、主に口腔白板症、口腔扁平苔癬、水疱形成性粘膜疾患や口内炎の診療を行っています。白板症はおもに臨床的な定期的観察によって病態変化を捉えています。これに加えて擦過細胞診、ときに生検などによって一部の病変の上皮異形成症や上皮内癌への移行を早期に診断しています。外来再診率を維持している(70%程度)ので、病態の変化に早期から対応することが可能であり、このことにより不必要な切除が回避され、悪性の病変を切除した場合にも高い生存率が得られています。口腔扁平苔癬では、先に述べた白板症や自己免疫水疱症との関わりを診ることが肝要です。さらに、口の粘膜(唇・頬・舌・歯肉など)の炎症(口内炎)に関わる、アレルギー反応や自己免疫反応、細菌やウイルス感染に対する反応、機械的な刺激になど多様な病態を診断し治療を行っています。

顎変形症

顎変形症は顔面を構成する上顎骨や下顎骨などに上下・左右・前後的な位置異常があったり、顎骨の大小により上下の歯の噛み合わせがずれてしまったり、顔貌が非対称で歪むといった顔面を構成する骨格の不調和を生じる疾患の総称です。日本では下顎前突症(いわゆる受け口)の患者さんが多数を占めます。顔面骨格の不調和は見た目の問題や上手に噛めない機能的な問題だけでなく,発音が不明瞭になったり、顎関節の異常が出現するなど様々な障害を引き起こす場合があります。また下顎が小さい小顎症は睡眠呼吸障害の原因の一つとも指摘されています。当診療部での手術件数は増加しており最近では年間80例程度の顎矯正手術(骨切り手術)を施行しており、下顎単独手術より上下顎手術の症例が増えています。

顔面外傷

顔面骨折・外傷:当科では、主に交通事故や殴打・転倒・スポーツや殴打などによる顔面、口腔の軟組織(皮膚や粘膜)の損傷、および上下顎骨の骨折・損傷、その他全ての顔面外傷を取り扱っています。顔面の骨折では、各種の画像診断を駆使して治療しています。例えば下顎骨折の治療は、顎間固定による整復の後に、手術により骨折部位をプレートとスクリューで固定し、できるかぎり早期の機能的、形態的回復および社会復帰を得るために主に観血的整復術による手術療法を行っています。骨折の変形治癒例では骨切り術や骨移植によって治療を行います。

摂食・嚥下障害に対する治療・訓練

脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)による麻痺や神経・筋疾患(パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症・筋ジストロフィーなど)、認知症、加齢による筋力の低下、生まれつきの病気(小児)などで食べる・咬む、のみ込みの機能が低下している方に評価や検査(嚥下造影検査(バリウムなどの造影剤を飲んでもらい放射線で撮影する検査)、嚥下内視鏡検査(鼻からファイバーを入れてする検査)など)を行い、訓練や食事の指導を行います。必要に応じて嚥下補助装置(飲み込みを助けるための入れ歯のような装置)を作成します。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療、評価

いびきや夜間の無呼吸の方に口腔内装置(いびきを止めて呼吸をしやすくするマウスピース)を作製します。また、レントゲンで骨格の問題やファイバーで喉の病変の精査を行います。

口腔内装置は、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査で閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断され、専門医に口腔内装置が必要と判断された方が対象です。当院では顎骨の異常に伴った閉塞性睡眠時無呼吸症候群以外の診断は気道や睡眠の専門医との共同で実施しています。

口唇口蓋裂

顎顔面に発生する先天性の形態異常では、上くちびると上あごの割れ目(口唇口蓋裂)が最も多くみられます。日本人における発生率は高く、おおよそ出生児500人に1人発生します。出生後すぐに問題となる哺乳障害には哺乳床(ホッツ床)を作成し、生後3ヶ月を目安に口唇形成術を行い、良好な構音機能を獲得させる目的で1歳半前後に口蓋形成術を行うことにしています。また必要に応じて顎裂への骨移植術、さらに上下顎の著しい不均衡にたいしては顎矯正手術(骨きり術)を行うなどして、生後から成人に到るまで、一貫した系統立った治療と維持管理が重要です。

顎顔面の先天性形態異常には顔の一部も裂けている斜顔裂、横顔裂、耳や指の異常を合併した症候群もみられます。本学附属病院は自立支援医療、更生医療の指定病院で、申請により医療費の補助を受けることが出来ます。

クリニカルパス

クリニカルパスとは、一定の疾患を持った患者さんに対して、入院指導、教育、ケアや処置、検査項目などをスケジュール表などにまとめた治療計画書のようなものです。
当科では、智歯埋伏抜歯術に対して、2006年からクリニカルパスを開始し、現在では年間約150人の患者さんが対象になっています。

クリニカルパスの導入によって、患者さんは入院から退院までの流れを一目でわかり、診療内容や手術、検査、処置の予定が把握しやすくなります。医療職側もこれにより医療の標準化が行われることで異常経過の検出がより容易になる結果、医療事故の回避、チーム医療の強化が可能となり、より質の高い治療・ケアを患者さんに提供しています。

歯科用インプラント

歯の欠損したところには義歯やブリッジによる補綴治療が行われてきました。近年、歯科用の(人工歯根)インプラントの研究および開発が進み、臨床で適応される症例も増えてきました。しかし、すべての症例に使用できるわけではなく、顎骨の形を整えるための骨の移植によってはじめてより可能となる場合もあります。また、腫瘍治療や外傷あるいは先天異常が原因で生じた顎、顎骨欠損に伴う歯の欠損にたいして人工歯根インプラントを行う場合には健康保険適応となるものもあります。